第65回日本聴覚医学会総会・学術講演会

会長挨拶

第65回日本聴覚医学会総会・学術講演会 会長挨拶

 第65回日本聴覚医学会総会・学術講演会を名古屋大学耳鼻咽喉科学講座で担当させていただくことになり、とても名誉なことであるとともに身の引き締まる思いでございます。このような機会を与えていただきました学会役員の先生をはじめ会員の皆様方に厚くお礼を申し上げます。本学会を名古屋大学が担当させていただくのは、第13回大会(後藤修二会長1968年)、第23回大会(三宅弘会長1978年)、第34回大会(栁田則之会長1989年)、第52回大会(中島務会長2006年)に続き5回目となります。
 今回の主題は、「聴覚の可塑性―基礎研究から臨床所見まで」と「他覚的聴覚検査の応用と評価」の2題と致しました。神経系が外界の刺激により機能的・構造的な変化を生じる可塑性は、補聴器や人工内耳装用後の聴覚においても観察されています。認知症発症に対して最も効果的な予防可能な因子として、中年期の聴力低下への適切な対応が最近報告されています。聴覚障害への対応から認知症対策への視点も含めて、聴覚の可塑性に関わる情報共有の場としたいと考えています。また、聴覚所見を的確に把握するためには、自覚的検査のみならず他覚的検査の役割は大きく、検査機器の進歩とともに得られる情報も増しています。的確に「難聴」を評価し、適切に「聴覚障害」への対応をすることは私たちの責務でもあります。聴覚障害の病態および診断における他覚的聴覚検査の応用と得られた所見の評価について、議論を深めていただければ幸いです。
 主題講演群に先立ち、関連する基礎知識を整理・再確認していただくために、教育セミナー1では愛知医科大学の内田育恵先生の「聴力と認知予備能」、教育セミナー2では東北大学川瀬哲明先生の「他覚的聴覚検査―知っておきたい基本的事項―」を組んでおります。特別講演1の藤田医科大学神経内科渡辺宏久教授によるご講演「ヒト脳内回路に内在する可塑性:MRI研究でみえてきたこと」では、健常加齢における脳の代償機転や、認知症発症ではその代償機転が破綻すること、聴覚を含めた一次情報処理システムが脳機能維持に大切であることをお話ししていただきます。また、特別講演2の聴覚領域に精通した名古屋大学環境労働衛生学加藤昌志教授のご講演「聴覚に影響を与える新しい環境因子」では、飲用水等の環境に含まれる重金属が難聴を誘発する話題もお聴きできます。
 今回の学術講演会において私が最も皆様と共有したい話題として、特別企画「障害の先にあるもの―“見えない”障害と生きてきて―」を設定しました。2020年東京オリンピックならびにパラリンピックは延期となりましたが、NHKはパラリンピックの放映に際し、障害者キャスター・リポーターを採用しています。生まれつき聞こえに障害のある後藤佑季さんもその一人です。私たち医療従事者は病気と対峙する時期を患者さんと共有しますが、その後障害を乗り越えた先にあるものを患者さんと共有できることは大きな喜びとして私たちの心に返ってきます。聴覚に携わる皆様が、現在携わっていらっしゃる仕事にやりがいを感じモチベーションアップの機会を、学会主催者として提供できれば幸いです。
 新型コロナウイルスの影響もあり、例年に比べて一般演題登録数の大幅な減少を覚悟しておりましたが、お陰様で189題の演題応募をいただきました。会員の皆様のご熱意に感謝するとともに、第65回日本聴覚医学会総会・学術講演会が予定通り開催できることを祈りつつ、感染対策を十分に図り準備して参ります。聴覚を専門にされる方々と秋のひとときを満喫できますよう、皆さまのお越しを心よりお待ち申し上げております。

名古屋大学耳鼻咽喉科学講座 教授
曾根 三千彦

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